読書生活 

本もときどき読みます

『たそがれ清兵衛』藤沢周平

 「たそがれ」とか「うらなり」とか「だんまり」とかあだ名される冴えない男が主役。強さと情けを備えた魅力的な男であるギャップがかっこいいです。

 どの短編集も、主人公の周りの人間の出世欲が凄い。対立軸がはっきりして、主人公のさえなさ加減が浮き出てきます。 

 本題にもなっている「たそがれ清兵衛」。

主人公の井口清兵衛は昼の城勤めでは居眠りする。仕事が終わるとさっさと帰り、病弱な妻を寝かせ、炊事や洗濯をする。それが終わると内職の虫かごづくりと「車輪の勢い」で働く。

 そこに、藩の上層部でお家騒動が起きます。筆頭家老の堀将監が、飢饉を救うという名目で領内の豪商、能登屋万蔵と組み藩政を牛耳ります。やがて、藩主の交代を企てます。

 家老の杉山頼母らは、堀派を失脚させるべく、上意討ちの機会を伺います。そして、この上意討ちを、清兵衛に頼みます。清兵衛は実は無形流の名手だったのです。清兵衛は、堀将監を討ち、後で堀の護衛だった北爪半四郎をも討ち果たします。

 上意討ちを果たした清兵衛は、のぞめば出世が叶うものの、地位をのぞます、妻の養生のためによい医者と転地療養だけを受け入れて、平凡な日常に戻ります。 

 映画は、この「たそがれ清兵衛」を含めたいくつかの短編を合成しています。真田広之と宮沢りえの、淡いなれそめや恋心は、この「たそがれ清兵衛」のエピソードではありません。なので、映画を見て、あの二人のやり取りにきゅんとした方は、この原作を読んでがっかりなさるかもしれません。