読書生活 

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長嶋や寅さんの悪口を言う人はいるのか 『態度が悪くてすみません』内田樹

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 確か、「白い巨塔」だったと思います。黒木瞳唐沢寿明に別れを告げるシーンでした。これだけはっきりと覚えているのですから、おそらくあっているでしょう。

 黒木瞳が、「みんなに好かれる人なんていない。なぜならそういう人(みんなに)を嫌う人が必ずいるからよ」と唐沢に言うんです。言葉は違ったとしても意味はこんな感じです。人気者も誰かに嫉妬され嫌われる、どれだけ周囲に取り繕っても、その取り繕われ方を他人と比較して嫌われることになる、という意味です。私は大きく共感した記憶があります。「白い巨塔」懐かしいなあ。あれから10年以上経つのか。

 ところが、「誰からも悪口を言われない人間がいるよ」と内田樹さんが教えてくれました(『態度が悪くてすみません』)。それが、長嶋茂雄と車寅次郎です。もちろん寅さんは虚構の人ですが。

 本当だ。いましたね。長嶋さんや寅さんの悪口を聞いたことがありません。内田さんは、この二人のことをこのように言っています。

長嶋茂雄は野球を通じて近代的な価値を獲得することを求めていたように思われない。彼は記録も名声も富貴も求めず、ただボールが飛んでくる、それを打つ、捕る、投げる、それだけのことに全身全霊を没入させていたように思う。

 そして、勝率や年棒のことばかり考えているプレイヤーは、このような存在になれないとしています。

 また、寅さんのことは、

寅さんは、とどまるべき家も、守るべき係累ももたない「唯一の遊行者」である。彼はある集団の人間的なネットワークが破綻したところに不意に出現し、そのほつれ人間関係を修復し、彼の介在を不要とするまでに秩序が回復されると黙って立ち去る。

と言います。この二人の共通点は、「名声や富貴を何も求めていないように見えること」ではないでしょうか。そして、このことはとんでもなく難しく、人気者になればなるほど困難なのではないかと思います。

 ちなみにうちの中二の息子は「寅さん」を知りませんでした。「長嶋茂雄」は聞いたことがあるが何をしている人かは知らない、とのこと。そういえば、テレビで「男はつらいよ」を放送しないのはなぜでしょうか。寅さんは日本文化のひとつだと思います。「ハリーポッター」や「バイオハザード」もいいですが、「男はつらいよ」も流してもらいたいものです。視聴率稼げないのかな?私は絶対見ますよ。