読書生活 

本もときどき読みます

友人が目を覚まさない

 去年の春、大学時代の友人が倒れました。倒れた直後は命の危険もあったと聞きました。落ち着いてから、彼の奥様から連絡をいただきました。わたしたちが彼に会えたのは、彼が倒れてから一か月後のことでした。

 

 彼は、身だしなみに気をつかう男でした。肩幅が広く骨太な男でした。しかし、ベッドで寝ていた彼は、丸坊主で、やせ細り、わたしの知っている彼なら絶対に袖を通さないだろう病院着を着ていました。

 

 彼は大学を出て、なぜかパン屋に就職し職人になりました。十年経ち、独立して店を出しました。彼らしいいかつい外観の店でした。店内は奥様がしつらえたのか、外観とアンバランスな甘い雰囲気の不思議な店でした。 

 

 彼は麻雀が好きでした。わたしも好きでしたが、彼はわたしと違って強かった。一人暮らしのわたしの部屋に人数が集まり、麻雀でもしようかという話になると、彼はその匂いを感じたのか必ず来ました。当時は携帯などないので、面子が足りないときは部屋の固定電話にかけるしか方法がありませんでした。しかし、大学生はバイトだなんだかんだと家にいることは少なくなかなか捕まらないのです。さらに、彼は住所不定感が強かったため、連絡は本当にとれませんでした。でも、麻雀となると彼は必ず来ました。「俺を呼んだだろ」と言いながら、当たり前のように卓につき、夜通し打って明け方帰っていきました。

 

 妻との出会いにも彼がいました。わたしと妻が付き合うことになったとき、喜んでくれましたし、結婚式にも来てくれました。

 

 この2月、彼の奥様から「転院した」という連絡をいただいて、また会いに行きました。前の病院より明らかに小さく、治療の場というより、生活の場、という感じがする病院でした。奥様は「(奥様が)通いやすいように近くの病院にしたんです」と言ってましたが、本当のところはわかりません。改善の見込みがない彼に病院側から転院をすすめられたのかもしれませんし、費用の問題かもしれません。もしかしたら、それらはうがった見方であって、ひょっとしたら彼の治療方針にとってベストな選択肢だったのかもしれません。

 

 彼の枕元には3枚の写真がありました。彼が親族ととった写真、彼と奥様の写真(彼らには子どもはいませんでした)、そして、わたしたちが大学時代に行った軽井沢旅行の写真です。今から20年以上前、激安という理由で冬の軽井沢に行きました。がらがらの軽井沢、きんきんに冷えた軽井沢でしたが、すごくすごく楽しかったのはなぜでしょう。

 

 先日、うちの息子が14歳になりました。この子が生まれたときも、遊びに来てくれました。そのときの写真を引っ張り出して今眺めています。まだ、若い彼に抱かれた、生まれたばかりのうちの息子。

 

 おい、うちの子は14歳になったぞ。中二だぞ。麻雀を教えようと思うんだけど、面子が足りないんだ。早く来てくれよ。3人そろったら、毎回来てくれたじゃないか。わたしみたいなドラ麻雀じゃなくて、きれいな麻雀を教えてやってくれ。