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オレの栄光時代は今なんだよ!

 息子の総体予選(バスケ)が始まりました。3年生にとっては最後の大会です。清宮くんだけではなく、7月の週末、全国の中高生がそれぞれの場所で濃密な夏を過ごしています。

 息子の地域の予選についてふれます。一次ラウンドが市の大会。5位までが勝ち抜けです。二次ラウンドが地区大会。2位までが県大会に行きます。三次ラウンドが県大会。ここで2位までに入ると関東大会、そして全国大会となります。

 7月17日(月)。この日は一次ラウンド最終日、市の大会の決勝戦でした。前述のように5位まで二次ラウンドに出場できるので、この試合で負けても引退とはなりません。

 このチームは3年生4人を中心に、県大会(三次ラウンド)の上位進出をめざして練習してきました。3年生4人のうち、3人はミニバス経験者で身長もあり盤石のレギュラーです。あと1人の3年生は中学校からバスケを始めました。Tくんとしておきます。今回はTくんの話です。

 Tくんはいつもベンチにいます。誰よりも大きな声を出して応援し、タイムアウトのときには一生懸命うちわで選手をあおぎ、けがした選手がいたらさっとかけつけ患部を氷で冷やす、そういう献身的な姿をいつも感心して見ていました。彼は、3年生なのに2年生や1年生にもそういうことをします。

 ベンチ入りは15人です。この15人が、レギュラー(5人)、二軍(5人)、三軍(5人)の三つに分かれています(二軍と三軍の壁はあいまいですが)。レギュラーが先発し、50点ほど差がついて勝ちが確定したあと二軍が登場し、試合時間あと数分というところで、三軍の出番です。その三軍の中にTくんはいます。

 二軍、三軍となるにつれレベルが下がり、三軍だともうわたしが見ていても「あれれ」というような感じです。第一次ラウンドまでは三軍の出場機会があり、県大会まで行くと、ほぼレギュラーメンバーで試合を進め、ファールを重ねたり負傷したときに、二軍の数名がかわりに出る、そういう感じです。Tくんは三軍ですから、実質出場機会は今日(7月17日)がラストチャンスだったわけです。ちなみにうちの息子(2年)も三軍です。

 この日の決勝戦も、試合は息子のチームがいつものように相手を圧倒しました。そろそろ二軍の出番かな、と思っていたら、Tくん一人がアップしています。今日の采配は違うようです。そして、Tくんだけメンバーチェンジです。レギュラーの2年生1人とTくんが交代しました。今コートにいるのは、レギュラー4人とTくんの5人です。

 3年生が4人全員同じコートに立っている光景、はじめて見ました。こういうこと、うちのチーム本当にないんですよ。どういう采配がいいのかはわたしはわかりませんし、監督批判をするつもりはまったくありません。しかし、今回のTくん起用は大賛成です。興奮して試合を見ました。だれもが「Tくんがんばれ」と思っていたはずです。ベンチも保護者席も。

 バスケってときに100点なんていうスコアになるので、簡単に点が入ると思っている方が多いと思うのですが、実は違います。点取り屋のエースは何十点もとれますが、その他の子たちはなかなか点が取れません。うちの子も、ミニバスからはじめて3年、先月初めて公式戦でフリースローを決めました。そういうものなんです。おそらく、公式戦で1点も取らずに引退する子もいるんじゃないかな。Tくんは公式戦、無得点です。

 レギュラーの4人はTくんに点を取らせようと、敵をひきつけパスを回します。しかし、なかなかTくんのシュートが入りません。Tくんはドリブルで相手を抜く技量もなく、よいポジションに走り込むこともできないため、味方もなかなか決定的なパスはだせません。どうやら自軍ボールになったらリンク下にTくんを走らせ、そこにパスを出す作戦のようですが、うまくいかない。密集したゴール下では、Tくんはパスをもらってもすぐに敵に囲まれて落ち着いてシュートにいけません。パスをもらったらすぐシュートを撃つ、それしかない。ところがなかなかシュートにすらいけない、もどかしい時間が流れます。

 試合時間は残り1分を切りました。Tくんは、ディフェンスのあまいところを探し、少しずつリンクから遠のいていきます。しかし、その位置からではシュートはほぼ入らない。見ているこちらもあきらめムードが漂ってきました。そして、残り時間30秒。Tくんにパスが回ってきました。時間的にほぼラストチャンス。

 しかし、そこはリンクのはるかかなたのスリーポイントライン。その瞬間、ベンチの全員が、

「撃て!!!!」

と。その声に押されTくんがシュート!スリーは滞空時間が長く感じますが、今回もすごく長かった。彼の放ったボールが宙を舞い、そして…

 審判が指を3本立てます。公式戦初得点がスリーポイント!ベンチも保護者席も総立ちで絶叫。あふれる涙がとまらない。

 試合終了後、全員がTくんに抱きつき、体をかかえられ椅子にむりやり座らされました。とまどうTくんを、部員全員が取り囲みうちわであおぎます。中にはTくんの体をアイシングする子もいました。

 最初は照れくさそうに笑っていたTくんでしたが、しだいにうつむいて、そして泣き始めたんです。つっぷして大声で。

うわぁぁぁぁぁぁ

 と。

 バスケ漫画スラムダンク」で主人公の桜木のこんなセリフがあります。

「オヤジの栄光時代はいつだよ…全日本の時か? オレは………オレは今なんだよ!」

 彼にとって、今日のあのスリーポイントが、仲間に囲まれた瞬間が、これから彼に訪れる多くの栄光の瞬間の一つになることは間違いありません。そういう時間に立ち会えて、わたしは幸せでした。