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司馬史観とは何か 

 司馬遼太郎に「あなたの作品に書いてあることって、本当にあったことなの?」と聞いたら、どう答えるでしょうか?

司馬史観 

 司馬史観という言葉があります。わたしの愛用する『広辞苑 第四版』(岩波書店)にはのっていませんので(27年前のものですから、最新版にはのっているかもしれません)、ネットで調べてみます。

 歴史小説家である司馬遼太郎の一連の作品に現れている歴史観を表した言葉。

 端的に言えば「合理主義を重んじる」ということが前提としており、それは大戦期に戦車将校として軍の中にある様々な非合理を見たことから来ているとされる。

 具体的には「明治と昭和」を対置し、「封建制国家を一夜にして合理的な近代国家に作り替えた明治維新」を高く評価する一方で、昭和期の敗戦までの日本を暗黒時代として否定している。

 そして、合理的で明晰な思考を持った人物たちを主人公とし、明治という時代を明るく活力のあった時代として描いた。

 かくて、戦前のすべてを悪しきものとして否定する進歩史観が猖獗を極めた戦後日本にあって、司馬作品のみならず司馬史観がもてはやされたのは容易に理解できるところである。

 史料を読むだけでは歴史小説は書けません。史料のコピーと張り付けだけでは物語になりませんから、史料を埋める作業を行います。そのときに意識的・無意識的にかかかわらず、その物語の書き手の歴史観が入ります。それが史観と言われるものです。司馬さんが書いた小説に入っている歴史観を、司馬史観と言います。おおむね、司馬史観は「明るい明治、暗い昭和」というゴールに向かって意識されているとよく言われています。

司馬作品の真偽について 

 司馬作品には、登場人物のつぶやきどころか夜の営み中のささやきまで、まるで聞いてきたかのように見てきたかのように書かれています。例えばこんな感じです。

「志乃、罷るぞ」と、そう光秀は言い、暗闇でかすかにうなずいた。念の入った男だ、と志乃は思った。『国盗り物語 3』

 ここの光秀とは、もちろん明智光秀のことです。「『志乃、罷るぞ』と明智光秀は言った」とは、史料には書いてないでしょうし、ましてや、「『念の入った男だ』と志乃が思った」とは書いてないと思います。これは、あくまでも司馬さんの想像でしょう。

 司馬遼太郎は多くの史料をもとに書いていることで有名です。ただ、そんなことまで史料に書いてないでしょう、と思う記述は多いです。「それは本当の話なの」と聞きたくなることもあります。司馬遼太郎は今から20年前にお亡くなりになっていますし、もう聞けません。

司馬作品にある話は本当なのか 

 ところが、司馬さんは生前もこういう質問をたびたびされていたようです。『司馬遼太郎が考えたこと 3』にありました。引用します。

 歴史小説を書いていてよく質問されるのはその史実性のことである。

「あれは、本当にあったことですか」

 創作的立場にある者としては、これは返答しなくていい質問であると思っている。小説はそういう質問をうける性質のものではないからである。

 また、ラジオやテレビなどで歴史の話をしてほしいと頼まれることがあるが、これもことわっている。私は小説家であり、そのかぎりにおいて他の職業人と同様職業的自負心はもっているが、歴史家の光栄は背負っていない。両者は地球の裏と表ほどに距離の離れた分野であり、その両者の精神が住んでいる場所もまったくちがう世界である。とうてい互いに代役はつとまらない。要するにそういう質問や誘いが来るのも、小説における史実の史実性というのが、一般に興味が深いからであろう。

 私の立場を述べてみたい。それぞれの創作家によって意見は違うと思うが、私の場合は、小説家には歴史を曲げる権利はないと思っている。歴史は国民の共有財産であり、いかに小説であってもそれを勝手に変形していいものではないであろう。だから、私の能力のあたうかぎりにおいて正確を期したい。その正確を期するために先人の書いたものを読んだり、史料にあたったりするのだが、この段階のおもしろさというのは、私にとっていかなる娯楽にも代え難いものである。

 かといって歴史家でないというのは、その段階を科学的精神と方法でやり、それを完結させるというのがその分野の仕事であり、小説家の場合は、その段階は単に創作的刺激をもとめるための予備運動に過ぎない、ということである。言い換えれば、作家にとって史料というのは想像の刺激物にすぎない。小説のたねではなく、あくまで刺激剤なのである。

 ふう。以上です。司馬さんは「その手の質問には答えない、でも、嘘を書いているつもりはない」というでしょう。 

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