猫のまぐわい
真夏のような暑さの中、うちの近所は恋の季節のようです。といっても、人間ではなく地域猫の話。23時、ワールドカップの試合が始まるころ、うちの家のまわりでも猫たちによる負けられない戦いが始まります。
フギャー!フギャ―!シャー!フギャー!と、ひとしきり咆哮があって、そのあと、トーンの変わった声が聞こえてきます。
うい~い~ぃ、あい~い~ぃ、ふう~ぅ~ぃ、う~…。
猫のまぐわう前の咆哮と最中?のあま~いささやき。うちの福ちゃん(去勢済み)は、怯えて家の中を走り回ってます。
猫の交尾シーンって実際に見たことないんですよね。一方が後ろからおおいかぶさる画(いわゆる後背位というスタイル)が普通なのかな?と思っていました。
梶井基次郎『交尾』
猫好きの梶井基次郎に『交尾』という作品があります。ここに出てくる猫は、梶井基次郎に正常位を披露します。引用します。
彼らは抱き合っている。柔らかく噛み合っている。前肢でお互いに突張り合いをしている。見ているうちに私はだんだん彼等の所作に惹きいられていた。私は今彼等が噛み合っている気味の悪い噛み方や、今彼等が突張っている前肢の-それで人の胸を突張るときの可愛い力を思い出した。どこまでも指を滑り込ませる温かい腹の柔毛-今一方の奴はそれを揃えた後肢で踏んづけているのである。こんなに可愛い、不思議な、艶めか強い猫の有様を私は見たことがなかった。しばらくすると彼らはお互いに抱き合ったまま少しも動かなくなってしまった。
「柔らかく噛み合っている」ので密着しているのかと思いきや、「前足でお互いに突張り合いをしている」。「前足でお互いに突張り合いをしている」ので、正常位と思われます。お互いに向き合っているけれど、上半身の距離はきっちり腕の分離れているのに、噛み合ってるから、首の関節をそうとうしならせ顔面だけを寄せ合っていることになります。
猫好き梶井基次郎の異色作です。初めて読んだのが中学のとき。それから30年経ちますが、この作品について誰かと話したことは一度もありません。猫って正常位なんだ、と勝手に決めつけてます。
「猫の恋」は春の季語
『吾輩も猫である』という文庫に、「猫の恋」は春の季語なのだと書いてありました。最近の猫ブームで新しく作られた季語なのかな、と思って調べたら、昔からあったようです。これは松尾芭蕉が読んだ句です。
猫の恋 やむとき閨の朧月
もう一つ、正岡子規の句です。
おそろしや石垣崩す猫の恋
猫は昔から愛されています。季語は春なのにうちのまわりは今が旬です。