江戸時代、土佐を出た船が漂流し、とある島にたどり着きます。その島の名は鳥島。東京から600キロ離れた無人島です。船は大破し脱出できず、見渡す限り青い海。船は一艘も見えません。仲間は3人。
アホウドリが主食となりました。羽を広げると2mにもなる大きな鳥ですが、何百万羽といました。人を恐れず逃げないので、簡単に捕まえられました。火がないので、生で食べました。主食はこれで、海から魚や貝を取って食べたりもしました。
水が全くありません。となると、雨水をためるしかないのですが、その容器がありません。試行錯誤の末、アホウドリの卵が容器として適していることがわかりました。体が大きいだけあって、卵もビック。一つで約3合(500ml)たまります。何百個も卵の殻を並べて、雨水がたまったら汚れが入らないように蓋をしました。
アホウドリがいなくなる
4月下旬、アホウドリが一斉に飛び立ちます。とうとう一匹もいなくなりました。渡り鳥だったんですね。貝や魚を主食にしようとするのですが、そう簡単に捕まえることができません。釘をまげて針にするのですがなかなか釣れません。針がとても貴重なので、海底の岩に根がかりしたら、寒い海に潜って針を外しに行きます。餓死の恐怖に襲われます。
アホウドリもどる
9月、アホウドリが戻ってきます。餓死寸前の体験を生かし、今度はアホウドリの干物づくりに励みます。山ほど干物を作り、これで、水も食料も心配なくなりました。そうするとやることなし。一日中ぐうたらする3人。そのうち、体の調子が悪くなってきました。主人公は、海や山で貝や木の実を取ったりしますが、他の2人はやらないんですよ。もう生きる気力を失ったんですね。その2人はとうとう死んでいきます。
脱出を試みる
とにかく船が一艘も見えません。褌をつなげて旗を作って発見されようとはするのですが、船が通らないんですから意味がなさそうです。大きいアホウドリを捕まえ、空を飛ぼうとするも失敗(そりゃあそうです)。外界と連絡を取るために、100匹以上のアホウドリに手紙をつけました。体が大きく丈夫な鳥を選んで手紙をつけました。そして帰ってきたアホウドリに返事がついていないか、一生懸命探しました。でも、ありません。どれだけ探しても、返事をつけたアホウドリが一匹もいません。
途中で、漂流仲間が増え、その仲間たちにこの島で生き抜く方法を教えて何とか生活を続けていき、10年経ちます。無気力になった人間が死んだり、仲間うちで険悪になったりします。ここで生きていくのは嫌だ、脱出したい!
みんなで船を作り始めます。この船作りが凄まじく大変で(涙)。最終的に、脱出し土佐に帰ることができます。主人公はまだ独身でしたが、中には妻帯者もいて、再開を楽しみにしていました。ところが、村に帰ると妻がいません。聞くと、お前が死んだと思って再婚したら、あんたが生きていて帰ってくると聞き、怒り狂ったあんたに何をされるか怖くて逃げたとのこと。悲しすぎます。
鳥島にはかなりの数の漂流者がいたらしいです。その中の大半は死亡しましたが、本作の登場人物以外にも生きて帰ることができた人間がいたようです。明治に入って人が住むようになりましたが、度々噴火にあい、昭和に入ってから、完全な無人島となりました。
吉村昭作品の魅力
解説にありました。
「ひとりよがりの幻想に溺れたりしない。意味ありげな言葉を連ねたりしない。ただ正確な眼でひたすらに行動を追う」
その通りです。そういえば、吉村昭の小説「破獄」がテレビ東京でドラマ化されます。4月12日(水)の夜9時放送です。楽しみだなあ。