読書生活 

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的中率 高いどころか 100%

  「上がるか下がるか」5回でも10回でも連続で当てることのできる方法です。

 ある老人の家に証券会社の営業を名乗る男から電話がありました。短刀直入に「株に興味はありませんか」と聞かれました。実はこの老人、過去に退職金を使って株に手を出したことがありました。しかし、痛い目を見て株から撤退し、今は年金でつつましく生活しています。

 当時の悔しさを思い出し、「何の興味もありません」と怒りを抑えながら答えると「この低金利の時代、資産を銀行に預けていても喜ぶのは銀行だけです。資産の一部を株で運用することをおすすめします」とのこと。

 「俺もそう思っていたよ、だけど失敗したんだよ」と言いたいのを我慢して「ああ、そうですか」と電話を切ろうとしたところ、

「株を運だととらえている方が非常に多いのですが、株は正確な情報と経験があれば大丈夫です。100%とは言えませんが、今、わたくしどもで注目しているのはA社です。株に興味をもたれたのであれば、A社をおさえておいていただけたら、と思います。今日のところは失礼させていただきます。お時間を取らせてしまい、申し訳ありませんでした」

「A社」と言い残して、その男はさわやかに電話を切りました。

 老人はすぐにA社をチェックしました。お世辞にも期待がもてるとは言えない状況です。ところが、動きのなかったA社の株が月末に近づくにつれてぐんぐんとあがりました。

 そして、月末。

「どうです、見ていただけましたか?」

「見たよ。たいしたものじゃないか」

「正確な情報と経験です」

「来月もA社は上がり続けるのか?」

「これ以上は規約により言えないのですが、株に興味をもっていただけたということで…実は、A社は翌月もおそらく大丈夫です。100%とは言えませんが」

「おたくが100%、なんてばかなことを言いだしたら、この電話はとっくに切ってるよ」

「ありがとうございます。しかし、A社は翌月までです。翌々月には大きく値を下げます。翌月までです。それでは今日はこれで失礼します」

 翌月から毎日A社をチェックする老人。大きな変動は見せないものの、地味に上がり続けます。

 そして月末。電話がかかってきました。

「また、あがったな」

「はい。しかし、A社はここまでです」

「この勢いだと、まだいけるんじゃないのか」

「いえ、A社はここまでです。見極めが大切です」

「じゃあ、次はどこが?」

「本来なら、正式に契約していないお客様に情報を伝えることは禁じられているのですが、〇〇様は特別です。来月はH社です」

「H社?」

「はい、H社です。もちろん100%とは~」

「もう、そのセリフはいいよ」

「失礼いたしました。それでは今月はこれで失礼いたします」

 H社は、その男の言う通りあがりました。老人はこの男と電話で5回話をしました。この男が上がると言ったら必ず上がり、下がると言ったら必ず下がりました。5回連続的中です。

 そして、6回目の電話のあと、老人はこの男にまとまった資産の運用をまかせることにしました。手続きをすませ、あとは資産が増えるのを待つだけです。

 そして、この契約が老人と男の最後のやりとりとなりました。

 

 詐欺の話なのですが、どうしてこの男は5回も的中させたのでしょうか。タネを聞いて驚きました。

 まず、株に手を出した人間の名簿を手に入れます。そして、

1回目 ①「A社上がる」に1000人②「A社下がる」に1000人に  電話する。

A社が上がったら①の1000人を残し、A社が下がったら②の1000人を残す。

そして、2回目の電話は残した1000人を500人と500人にわけ、

2回目 ①「A社上がる」500人 ②「A社下がる」500人

同じように、続けます。

3回目 ①250人 ②250人

4回目 ①125人 ②125人

5回目 ①62人 ②63人

 2000人が60人くらいまでに減りますが、5回連続的中を60人に見せられたら御の字だそうです。5回までに手続きをすます方も多いとのことです。同じように続けると、6回で30人、7回で15人、8回で7人、9回で3人、10回で1人。

 わたしは株のことがまったくわかりませんが、この話、よくできてるなあと思いました。今では、怪しい勧誘だと思ったらすぐに警察に電話されるので、このような悠長な詐欺は存在しないそうです。