読書生活 

本もときどき読みます

人生に道草は必要だ 『寺田寅彦全集 文学編』

 『科学者の仕事』という本を読んでいます。著者は脳科学者の酒井邦嘉さんです。研究者には「牛歩や道草をいとわない」ことが大切だとし、寺田さんの文章を引用しています。

 所謂頭のいい人は、云わば脚の速い旅人のようなものである。人より先に人の未だ行かない処へ行きつくことも出来る代りに、途中の道端あるいは一寸した脇道にある肝心なものを見落とす恐れがある。頭の悪い人脚ののろい人がずっと後からおくれて来て訳もなくその大事な宝物を拾っていく場合がある。

 頭のいい人は批評家に適するが行為の人にはなりにくい。凡ての行為には危険が伴うからである。怪我を恐れる人は大工にはなれない。失敗を怖がる人は科学者にはなれない。

 頭がよくて、そうして、自分を頭がいいと思い利口だと思う人は先生にはなれても、科学者にはなれない。人間の頭の力の限界を自覚して大自然の前に愚かな赤裸の自分を投出し、そうして唯々大自然の直接の教えにのみ傾聴する覚悟があって、初めて科学者になれるのである。併しそれだけでは科学者になれないことももちろんである。やはり観察とか分析と推理の正確周到を必要とするのは云う迄もないことである。

 つまり頭が悪いと同時に頭がよくなくてはならないのである。

 そして、酒井さんは言います。研究の中では、地味で泥臭い単純作業が延々と続くことがある。研究は決して効率がすべてではない。研究に試行錯誤や無駄はつきものだ。研究が順調に進まないと、せっかく始めた研究を中途で投げ出してしまいがちだ、と。 

 もう一つ、短い文章を引用しています。酒井さんの恩師の堀田凱樹(よしき)先生の言葉です。

 科学者は論理的でなければならないが、論理の積み上げだけでは十分ではない。着実な準備の上に論理を越えた信念と実行力が必要で、そこにこそ幸運の女神が微笑む。秀才であることは、成功するために必要でも十分でもない。

 科学的な発想や思考に必要なものは、「模倣」と「創造」だと。そして、科学における模倣とは、基本的に論理の積み上げで予測できる範囲にある。科学的な創造とは、これに対して「論理を越える」ことで、この予想をくつがえすような発見にたどり着くことだと。

 アインシュタインニュートンも悶々と悩み苦しみ生み出したとのこと。スパークは難しい。 

yama-mikasa.hatenablog.com 

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