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『64』平成がもうすぐ終わる今読むべし。

『64』あらすじ 

元刑事で一人娘が失踪中のD県警広報官・三上義信。記者クラブと匿名問題で揉める中、(昭和64年)に起きたD県警史上最悪の翔子ちゃん誘拐殺人事件への警察庁長官視察が決定する。だが被害者遺族からは拒絶され、刑事部からは猛反発をくらう。組織と個人の相克を息詰まる緊張感で描き、ミステリ界を席巻した著者の渾身作。

感想 おもしろいよ。 

 主人公が刑事でも探偵でもなく、警察の広報官という設定。警察の広報官というのは、事件のあらましや警察の捜査状況などをマスコミに伝えるのが仕事だそう。

 警察とメディア両者の仕事ぶりを熱気あふれた筆致で展開。珍しい設定ですが、彼の仕事への思いや家庭の問題などに感情移入しながら引き込まれていきます。 

主人公の癖が強いのか、著者の横山さんの癖が強いのか…。 

 主人公である警察広報官三上の視点でずっと描かれているのですが、 彼の癖がとても強い。刑事畑をすっと歩んできたという自負があり、この広報官という職務があまり気に入っていない様子。今の広報官ポストを不遇だと思っています。なぜ、俺を認めない、なぜあいつがって。こんな感じです。

28年に及ぶ警察官人生。人事は「神の采配」だと思うことにしてきた。前科の影を振り払うまじないでもあった。その差配に初めて「人」の気配を感じた。ただ単に記者対策の強化が狙いなら、前島が広報官でもよかった。彼は三上と同様、刑事畑一筋の男だ。強行犯捜査係の~『64』上p116

そして、自分をこんな境遇に追い込んだ人間を恨みます。特に、ここにもある二渡(ふなわたり)という同期の男への恨みがはんぱなくて怖いくらい。

本決まりだったはずの東京行きが土壇場でひっくり返った。二渡の仕業としか考えられない。指先一つで三上の名を消去し。近しい前島にプラチナチケットを回した。一人の刑事の未来を拓き、もう一人の刑事を無酸素の空間に放逐した。いや、放逐ではない~『64』上p353

ポストをチケットにたとえることは、ある。ただ「一人の刑事の未来を拓き、もう一人の刑事を無酸素の空間に放逐した」って、ねえ。無酸素の空間にって。こんなグチが随所にビシバシでてきます。

 地の文章が三上の内言ですので、長いときは独り言が延々と続きます。ミステリーではあるあるの主人公がこれまでのストーリーを要約し論点を整理する場面が、この『64』でもありますが、この論点整理の描写すら熱い。三上、猛烈に怒っている。

馬鹿が-

漆原の罪は万死に値する。地方の一警部の責任逃れが、警察組織そのものを窮地に陥れる。真の戦犯は当時の刑事部長、久間清太郎だ。ああ、そうだとも、組織防衛のためだ。所詮は我身かわいさだ。まさしく負の遺産だ。『64』上p310

こんなおどろおどろしい描写が10ページ以上続きます。わかるぞ、三上。今度朝まで飲もう。

 同僚や上司の描写も精緻でねちっこい。例えば、部下の女子「美雲」の初登場シーン。

 時に危うさを覚えるほど気持ちの真っ直ぐな娘だ。婦警という職業を選択した時点で、既に人並み以上の勤勉さと潔癖性が約束されているとはいえ、やはり美雲は特別に思える。モラルも性も人情も乱れ切った今という時代を逃れようもなく確かに生きてきたはずなのに、彼女は濁りの堆積を少しも感じさせない。容貌も清楚で美しい。若い頃の~『64』上p68

これも、まだまだ続きます。モラルも性も人情も~っていう言い回しも独特すぎ、しかも重い。美雲さん、美人なのか。あんたも一緒に飲もう。 

平成とは思えないおどろおどろしいセリフ

 独り言かほんとに喋ってる台詞か、読んでいて分からなくなります。以下のセリフは三上が言ってしまったセリフです。平成とは思えない表現に驚きました。

 こんなセリフが飛び交う職場…恐ろしい( ;∀;)。

「魂まで売ったつもりはありません」『64』上p209

「馬鹿野郎!サツ官がイロを垂らして仕事をするな!俺が土下座でもなんでもしてやる。美雲は即刻帰せ。いいな!」『64』下p24

「答えろ。お前の桃源郷を作るためにD県警を売るのか」

「本庁と二人羽織で闇将軍気取りか。それが地方エリートの本壊か」『64』下p127

桃源郷、二人羽織で闇将軍って…。だめだ、三上、お前とは飲めん。延々と豊富な語彙でののしられてしまいそうだ。しかも、飲むと余計に荒れるタイプと見た。

 でもね、『64』おもしろいんですよ。特に下の後半から一気に話が展開します。これには本当に驚きました。

 平成がもうすぐ終わる今、おすすめの一冊です。ちなみに今なら『31』ですね。 

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