読書生活 

本もときどき読みます

君はまだ最高の宿を知らない

 旅から帰ってきた。毎年、夏と冬にお世話になる宿がある。新潟の山中にある。万人に受け入れられる宿ではないのかもしれないが、私と妻にはここしかない。宿の口コミなど当てにならない。ここを見つけられたのは、まさに運。神様ありがとう。本当はみんなに教えたくないのだが、この宿の繁栄を祈り、以下にこの宿の素晴らしさを思いつくままに書く。

1 送迎バスの景色が美しい。

 上越新幹線のとある駅で降りて、しばらく待つと手拭いを頭に巻いたおじさんが現れて、点呼した後、バスに乗る。30分ほど揺られるが、私は景色をずっと見てる。何度も行ってるので、道も覚えた。川沿いを走り、小さい橋を渡り、スーパーや100円ショップを通り、中学校を右折、ここからいよいよ深緑エリア(私がそう呼んでいる)。広がる田園に濃い緑の山、青い空に雲が少し浮かぶ。ちなみに、この運転手のおじさんは、基本同じ。冬の半端ない雪道も完璧にこなすスーパードライバー。この夏の帰りに初めてこのおじさんではない若手が運転手になっていた。世代交代か?

2 宿のサービスがちょうどよい

 宿に到着。初めてではない客には、「いつもありがとうございます」と言ってくれるのだ。初めてではない客には、さっと鍵を渡すだけ。口コミを見ると、愛想ないみたいなことを書いてる人がいるが、王様扱いでもされたいのか?違う宿に行きなさい。私は笑顔の素敵な年配の女性の接客が心に沁みた。この人も毎年いる。今年もいた。名前を聞けばよかった。

3 部屋からの景色が美しい。

 窓から見える景色は、手を伸ばせば届きそうな木、木、木。山というより、枝まではっきり見える木々。山頂から見下ろす景色などではない。そんなものいらない。窓を開けると、それらが間近に迫ってくる。深呼吸してマイナスイオンを取り込む。今から2泊、この宿にいられるのだ!すでにかなり心身の調子がよくなっているのが分かる。

4 ロビーの雰囲気が素晴らしい

 基本、私は読書をして過ごす。部屋で、温泉で、ロビーで読む。部屋はもちろん、ロビーが最高なのだ!ワインが飾ってあるとか、顔が映りそうな大理石が冷たくて素敵、というわけではない。また、本をウリにしている宿のような、凄まじい蔵書や沈み込むソファがあるわけではない。ちょっとしたロビーだし、本棚もたいして大きくない。蔵書の数も我が家と変わらないだろう。ただ、その内容が私にかなり合う。東野圭吾の「さまよう刃」から川端康成の「雪国」まで幅広く、かなり私と似通っている。さらに、妻の好きなミステリーや音楽関係の書物まで揃っている。しかも、少しずつ入れ替えも行なっていることがうかがえる。去年の冬、私が家から持ってきて、去年ここで読んだ逢坂冬馬の「同志少女よ、敵を撃て」が置いてあったのには驚いた。外を見ながら本を読む椅子が4脚ある。私と妻は、並んで本を読む。コーヒーや温泉水を飲みながら、ずっと読む。ふと顔を上げると、緑が美しい。緑が近いんだ。あ、さっき言ったか。この写真は、顔を上げて見える緑。分かるかなあ。

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5 ご飯が美味しい。

 新潟を舐めるなよ。さすが米どころ。米が美味しい。この旅のために2キロほど減量してきた。決して贅沢な料理ではない。私達は1汁4菜コースなのだが、酢の物とか、ちょっとしたお肉とか、もうこれで十分。妻がご飯をよそい、私がお味噌汁の準備。同じメニューが続くことはない。

6 温泉がぬるく何時間でも入っていられる。

 36度くらいで若干ぬるい。ここに一時間くらい入る。私は本を持っていき、読む。温泉に入りながら読書する、なんてこと、ここ以外ではできないのでは?私以外にも何人か読んでる人がいる。そういう人のために、寝ながら入れるように上半身に緩やかな傾斜がついていて読みやすい。かなり長い時間、本に没頭。この旅では、「オリンピックの身代金」これはおもしろい。上がったら、妻が待っていた。ごめんなさい。

7 夜の月がamazing

  たくさんある湯船の中で、私達2人のお気に入りは、おくの湯、という数十メートル外を歩いたところにある湯船。夜、その道は、時代が全く関係なく、月が明るく山を照らすそれは幻想的な道だった。深呼吸して2人でしばらく立ち止まり、月に照らされた深山に身を委ねる。

8 薬がいらない。

 かなりヘビーな鬱持ちな私で、いつも大量の抗うつ剤を服用しているが、いらない。本当にいらないの。妻もそう言ってました。睡眠薬なしで寝られる。

9 圧倒的な山

 山が鳴くんだよ。虫の微かな羽音、鳥の鋭い啼き声、葉裏を渡る風のささやき、谷底より湧き上がる水の奔流、これらが一つに交じり合い、時に打ち寄せ、時に引いて、山全体がひそかに呼吸しているかのような妙なる響きを成している。その音色は、人の耳に心地よいのみならず、何か、遠い昔より今に至るまで、絶えず続いてきた大いなる生命の営みを、密やかに語りかけているようでもある。館内の所々に昔の写真が貼ってある。この方たちのおかげで、今の日本があり、この宿がある、と思うと、かなり感傷的な気分になる。

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 2泊以上することがおすすめです。2泊しないと触って帰ってくる、そんな感じです。2泊すると、帰りを意識しない1日を味わえる、これがあるのとないのでは全然違います。行きのバスでは疲れ切ってた人たちが、帰りのバスではイキイキしてるんですよ。あなた、すごくきれいになってる、と声をかけようとして、失礼にもほどがある、と、妻に止められました。冬も行きます。ロビーの椅子でずっと本を読んでいる2人がいたら、それは私たちです。あと、若旦那がいい男です。