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『島抜け』吉村昭 江戸末期に種子島から脱出する話が、とんでもなくおもしろい

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 みなさん、想像して読んで下さい。

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島抜け 

大坂で捕まった  

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 1844年、大坂で講釈師が捕まった。名前は瑞龍。幕府に少し批判的なことをしゃべっただけなのに。幕府は改革の真っ直中で罪人には厳しいご時世で、ほぼ極刑の島流しとなる。場所は種子島。写真は、当時の大坂城です。

 

 もちろん船で移動する。小さくて狭い。寝るときは手足を縮めるしかない。トイレはあるけど詰まって溢れ、糞尿の匂いがはんぱない。全身にあせもができ、かきむしるので化膿する。シラミが異様に繁殖し、下着が血を吸ったピンク色に染まる。

 地獄の船旅3ヶ月で、ようやく薩摩について一息入れる。あと100㎞もあるんだって。種子島に着くまでに死ぬんじゃないか。

種子島着 

 そこそこ人は住んでいる。村落もいくつかある。島に着くと、村の庄屋が引き取りにきた。どうやらこの庄屋が身元引受人らしい。庄屋には絶対に服従しなければならない。許可なく村外に出てはいけない。船に乗ってはいけない。ばくちもだめ。もし破ったら厳罰に処すとのこと。

 奴隷のようにこき使われるのかと覚悟していたが、庄屋は案外優しかった。麦飯やみそ汁も食べさせてくれるし、ふとんもある。朝起きて、耕地に鍬を入れたり、林に入って薪を作ったりするのが主な仕事だ。

 まあ、殺されることはない。大丈夫。別に暇な体だからね。

 まわりには多くの流罪の人間がいた。年齢層は幅広く、若者から年寄りまでいる。明るい人間もいれば、何を考えているかわからないくらい無口な人間もいた。それぞれ、庄屋に引き取られて自分と同じような生活をしている。

死人が出た

 ある日、同僚の亀吉の姿が消えた。あのじいさん、どこ行ったのだろう。いくら待っても帰ってこない。黙っての外出は厳禁、違反したら罰だ。そんなこと誰よりも知ってるはずなのに。逃げるって言っても島だから、逃げる所なんてないぞ。

 うん?もしかして、もしかして‥島抜けか?絶対に無理だ。激しい潮流に洗われているこの島。生きて出られるはずがない。もし、島抜けなんてことになったら、庄屋も罰せられる。

 4日後、亀吉の死骸が発見された。海岸に漂着していた亀吉のそれは、魚に食い荒らされ、骨も見えるほどのひどいものだった。島抜けに失敗した可能性もある。しかし、管理責任を問われないように、庄屋は、貝を捕ってる際に足をすべらせ老齢のため岸に上がれず水死、ということで処理した。

 亀吉は、島抜けをしようとしたんじゃないか、仲間の小重太が言った。「島の人間は優しく住み心地はいいが、俺はこんなところで死ぬまでいたくない。亀吉も同じ思いだったに違いない」と。下の写真は、種子島から見た夕日です。彼らもこの景色を見たことでしょう。

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島抜け 

 小重太の言うこともわからないではない。このままでは、この島で野良犬のように生き、老いて島の土となるしかない。

 ある日、竹蔵、小重太、幸吉と一緒に釣りに行った。対岸に行くため、船に乗った。そのとき、突然幸吉が言った。「このまま島抜けをしてもらえないか」と。幸吉の目には涙が溢れている。みなが同意した。「やるか」「ここまで流されたらもう戻れない」「このまま流されよう」。島抜けを決行した。

 4人が消えた島では大変なことになった。徹底的に島を捜索したが見つからない。管理責任を問われた庄屋と船の持ち主は罰せられた。4人が島抜けをしたことを、役所が薩摩藩に知らせた。4人に刑を申し渡した大坂奉行所にも、詫び状と共に書状を送った。

漂流 

 食べ物はほぼない、水もない。行き先は風任せ。どこでもいいから陸地に着いてくれ、祈る思いで周囲を見渡すが何もない。もともと釣りの途中だったので竿はある。でも、釣れない。ときどき豪雨がやってきて、それで喉を潤し、船底に溜まった雨水をすすり、手ぬぐいにしみこませた。

 舟底に空いている穴から海水がわき出るようだ。休まず海水を船からかき出していたが、その手も止まる。体力の限界だ。島抜けから10日経つ。どこにも陸地は見えない。もう死ぬ。動けない体で考えた。

あのまま島にとどまれば、近い将来、海に身を投げるか、樹林の中で縊死したに違いない。どうせ死ぬ身であったなら、舟の上で餓死しても悔いはない。その死は島抜けという積極的な行為の結果で、島での死よりもはるかに意味がある。

島が見えた

 小重太が叫んだ。「島だ!」。確かに見える。手で必死に漕いだ。少しずつ近づきやっと上陸。ああ、地面だ。陸地だ。倒れ込む4人。助かった。

 怪しげな4人をじっと見る人間の姿があった。必死で体を起こし話しかけた。どうやら通じていないらしい。相手の言葉もわからない。日本じゃない。ここはどこだ?唐だ。今の中国。

 身振り手振りで表した。日本からきた、漂流した、日本に帰りたい、船を直したい、と。通じたようだ。あちらの島へ行けと、指さしながら教えてくれた。どうやら、むこうの島には船大工がいるようだ。粥をもらう。ああ、ありがたい。五臓六腑に染み渡る。

 教えてもらった島へ行くと、武器を手にした大勢の男に囲まれた。女はおびえ、男の目は血走っている。ひたすら土下座する4人。助けてくれ、とお願いする。何度も頭を下げ懇願する4人を目にし、男たちは武器を離して耳を傾けてくれた。

どうやって日本に帰ろうか

 この島には道具も大工もいる。船を直すこともできる。だが、待てよ。瑞龍は考えた。この小船で日本まで帰るのは不可能だ。種子島からここまで来られたのも奇蹟なのだから、この小船で日本に行くのは死ぬようなものだ。唐の大船で日本に連れて行ってもらえるよう、頼んでみたらどうだろう。

 3人の仲間は了承してくれた。その話を島の住民に手振りで伝えると、あちらへ行けという。どうやら向こうに唐の役所があるらしい。

 なんとか着いたもののどうしたらよいか。人の多い唐の街を役場らしき建物を探し歩く。意を決して入るもののたちまち捕らえられる。瑞龍は紙と筆を用意させ、そこに「日本漂流人」と書いた。その紙を見た唐の役人は驚いた。日本は唐と交流している国。その国の人間にもしものことがあったら、国際問題に発展するのではないか‥。瑞龍のもくろみはうまくいった。扱いがよくなり、上の役人に手配してくれたらしい。

 そして、とうとう日本語を話せる通訳が目の前に現れた。「日本人だ。漁をしていたら漂流した。日本に連れて帰ってほしい」。話はトントン拍子にすすみ、どうやら日本に帰れることに。

 いやいや待て、このまま日本に帰ったら島抜けがばれる。島抜けは斬首だ。4人は日本での取り調べに備え、偽名、生国、いつわりの家族、漂流に至る経緯を事細かに設定し、ひたすら暗記した。どうせ証拠はない。ばれるはずがない。あとは個別の取り調べ対策、暗記だ。

日本に帰ってきた

 とうとう日本に帰ってきた。長崎の出島。鎖国中の日本が唯一外国に開いていた町だけあって、密輸や外国人による暴行など、ここでしか起きない犯罪があるらしく、見張りは厳重そのもの。この写真は、当時の出島です。

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 取り調べの前に役人が言った。明日より取り調べを行う。取り調べが終わるまでは罪人として扱うのでそのつもりでいるように、と。

 血の気が引いた。小重太の肩には入れ墨がある。それは、前科の証。もしそれを見られたら確実にばれる。大坂での前科がばれ、すぐ斬首だ。罪人扱いということは牢に入れられるということだ。牢に入る前は全裸になり徹底的に所持品検査が行われる。何も持っていないが入れ墨はばれる。その日の夜は4人とも眠ることができなかった。

 翌日、牢に入る。所持品検査なし。ほっと胸をなでおろす。取り調べには打ち合わせ通り話した。偽名、生国、家族構成。数ヶ月経ち、なんとか漂流人として処理された。

 役人が言った。「疑いは晴れた。しばらくして、おまえたちの生国に知らせを送る。それぞれの生国から家族がここまでむかえに来る。どれだけ家族が喜ぶことか」

 なんと、この場で釈放ではないのか。生国なんてでたらめだ。問い合わせたらすぐばれる。ここは長崎。書簡の往復に最低でも数ヶ月はかかる。それまでにここを逃げねば殺される‥。

 

 書きすぎました。ここでだいたい8割です。瑞龍、どうなると思いますか? 

 

欠けた椀

飢饉で飢え死にしそうになる話

 

 主人公と嫁と一人息子の3人家族。飢饉が数年続き、とうとう村の食べ物が亡くなった。食べ物が全くなく、何でも食べる。山へ皆で入るが、口に入れられそうなものは取り尽くした。

嫁の里追い

  こうなると、当時の日本では「嫁の里追い」なるものが行われたらしい。嫁は農耕になくてはならない働き手だったが、働こうにも仕事がない。家を守るための口減らしに嫁は実家へ戻される。これを「嫁の里追い」と言う。子どもは家の宝としてとどめられ、一人で戻らなければならない。

 この話に出てくる嫁(19歳)も追われることになるだろうと、その覚悟を決めていた。ところが夫が帰らなくてもいい、家にいてくれと言うわけです。実は嫁は帰りたくなかった。隣村にある嫁の実家は大家族で、両親と長男家族、家を出ていない次男もいる。実家も苦しくて、嫁が帰ってくることにおびえていた。嫁はすごく喜ぶわけです。

代官所がすすめる藁餅

  農民が全滅するのはまずい。そこで代官所は飢えをしのぐために藁を食えと言うわけです。藁を半日水につけ、砂を洗い流し、よくきざみ、蒸して煎って、臼で粉にする。その粉状の藁に少しの米粉を混ぜ、水でこね、餅のようにして蒸すかゆでるかして食べる。

 嫁も作ってみた。口に入れたがとても食べられたものじゃない。これ、藁じゃないか!息子に食べさせたら吐いた。代官所は、「馬が藁を食べるから同じ動物の人間も藁を食える」と考えたらしい。代官所の人間は、これ食べてない。馬が食うからって、こんなもの食えるか。

 ところが、その年も飢饉で、食べ物がない。やせ細り、ついにはその藁餅ですらなくなりかけ、息子が藁餅ほしいと泣き続ける。

村から脱出

  80キロ離れた町の寺で粥が配られていると聞き、村からも大勢出て行った。しかし、途中で行き倒れたのか、半分くらいしか村に帰ってこなかった。帰ってきた者の話によると、粥は本当に配られたらしい。その頃から村を離れる者が増え始めた。

 農民にとって、田畑が全ての財産といえる。村を出るとは全ての財産を投げ出すことになる。田畑を棄て村を出た人間に、戻る場所はない。

 ついに息子が死んだ。二人は嫁を連れ海に向かった。どの村も食べ物はなく、物乞いをすると石を投げられた。寺で時々粥をめぐんでくれるが、寺の人間が優しいというわけでなく、一杯食べたらさっさと出て行けという態度。海に行けば貝がある、海草がある‥。ところがとうとう嫁が動かなくなった。無表情で立ち上がりもしない‥。 

 

 吉村昭、最高。

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