読書生活 

本もときどき読みます

「かぜのひきかた」辻征夫

 かなりマイナーな詩集だと思う。街の本屋で見ることはまずない。出版社は「書肆山田」(しょしやまだ)と、これまたマイナー。

 気に入った本をあまり紹介するのは少し気が引ける。メジャーな本はずいぶんこのブログで取り上げてきたが、こっそり隠しておきたい本、他人の反応が気になる、まるで自分が書いた本のような、この詩集はそういう本だ。

 2つの詩を紹介する。

 

「ある日」

ある日

会社をさぼった

あんまり天気がよかったので

全サラリーマンの気持ちです。

彼は、それをやってしまう。

 

次は、少し長め。

「かぜのひきかた」

こころぼそい ときは

こころが とおく

うすくたなびいて

 

びふうにも

みだれて

きえて

しまいそうになる

 

こころぼそい ひとはだから

まどをしめて あたたかく

していて

これはかぜをひいているひととおなじだから

 

ひとはかるく

かぜかい?

とたずねる

 

それはかぜではないのだが

とにかくかぜではないのだが

こころぼそい ときね

こころぼそい ひとは

ひとにあらがう げんきもなく

かぜです

つぶやいてしまう

 

するとごらん

さびしさと

かなしさがいっしゅんに

さようして

こころぼそい

ひとのにくたいは

 

すでにたかいねつをはっしている

りっぱに きちんと

かぜをひいたのである

 

 万人受けするとは全く思わないし、誰かにすすめようとも思わない。むしろ逆に、あまり多くの人に読んでもらいたくない気持ちの方が強いかもしれない。

 好きな女性と同じで、誰かに見せびらかしたいような、隠したいような、複雑な気持ちが交錯してしまう詩集である。こういう気持ち、分かりませんか?