推敲にはいくつかのポイントがありますが、見逃しがちなのが、修飾語の並べ方です。知ってさえいれば、駄文が名文に早変わりです。
修飾語と言っても、多岐にわたります。この記事では、ある単語を説明する言葉、とし、誤解を避けるため、修飾語を「係る言葉」と言い換えて説明します。元の本は本田勝一の『日本語の作文技術』です。
係る言葉は長いものを先に、短いものを後にする
係る言葉とは
係る言葉とは、ある言葉を説明する言葉のことです。例えば、
白い紙
という文章をみてみましょう。「白い」が「紙」を説明しています。この「白い」が係る言葉です。この例文のように係る言葉が一つの場合は悩みません。
問題は、係る言葉がたくさん出てくる文章の場合です。例えば、「紙」に対して
「白い」「横線の引かれた」「厚手の」
という3つの係る言葉があるとします。みなさん、どうやって並べますか?少し迷いますよね。でも、今回の推敲技術を知ると迷わなくなるんです。とりあえずいろいろと試してみましょう。
①白い横線の引かれた厚手の 紙
②横線の引かれた厚手の白い 紙
③厚手の白い横線の引かれた 紙
①と③に違和感を感じませんか?ここで原則1です。
原則1:係る言葉が複数ある場合は長いものを先にする。
係る言葉が複数ある場合は、長いものを先に、短いものを後にします。「白い」「横線の引かれた」「厚手の」の3つの中で、「横線の引かれた」が一番長いので先にします。そうするとわかりやすい文章になります。係る言葉が複数ある場合は、
「係る言葉が長いものを先にする」
と覚えてください。「白い」と「厚手の」は長さがほぼ同じなので、どちらを先にしてもかまいません。
この技術、とても役に立ちます。係る言葉が多い文章はよくありますから。例えば、わたしのブログの記事にこういうものがありました。
わたしは、このブログによく家人に対する鬱屈した気持ちを書きます。
わかりづらい文章です。この文章では「書きます」に係る言葉が、
「このブログに」「よく」「家人に対する鬱屈した気持ちを」
の3つあります。これを、先ほどの原則1「係る言葉が長いものを先にする」に当てはめてみます。一番長いものは「家人に対する鬱屈した気持ちを」です。これを先にもってきます。
わたしは、家人に対する鬱屈した気持ちをこのブログによく書きます。
ほら、わかりやすくなったでしょう。「家人に対する鬱屈した気持ち」ってのが悲しいですが‥。
原則1の例外:短くても特別に強調させたい場合は、それを先にもってきて「テン」をつける。
この文章を読んでください。
体の大きないじめっ子の小林をあの田中が追いかけた。
係る言葉は、
「体の大きないじめっ子の小林を」「あの田中が」
の2つです。この文章では先の原則通り長い方を先にしています。悪くはありません。では、下の文章を読んでください。
あの田中が、体の大きないじめっこの小林を追いかけた。
となります。どうですか?印象が少し変わりませんか?先ほどの文章と比べると「あの田中が」が強調されているような気がしませんか?そうです、それがねらいです。強調したい言葉があったら、短くても先にもってきます。そして、そういう場合はその語のあとに「テン」をつけてください。
係る言葉が同じくらいの長さの場合は、順番を入れ替えても大抵は大差ありません。ただ、わかりづらい文章になることが時々あります。例をあげます。
薬指にナイフで太郎さんがけがをした。
悪くはありませんが不自然さを感じます。係る言葉は
「薬指に」「太郎さんが」「ナイフで」
の3つです。長さはほとんど同じです。みなさんは、どう並べますか?読み返してみて上の文章のように不自然さを感じたら、原則2です。
原則2:係る言葉の長さが同じ場合は大状況や重大なものを先にする。
大状況や重大なものを先にします。「薬指に」「太郎さんが」「ナイフで」、この中でスケールが大きい、もしくは大事なものはどれですか。この文書の中では「太郎さんが」の持つ意味が半分以上といってもいいでしょう。「太郎さんが」を先にしてみます。
太郎さんが薬指にナイフでけがをした。
先ほどの例文、「薬指にナイフで太郎さんがけがをした」と比べてどうですか?わかりやすくなったと思いませんか?「薬指に」と「ナイフで」は状況の大きさや重要度に大差ありませんので、ここは入れかえても問題ありません。
太郎さんがナイフで薬指にけがをした。
こんな感じです。たいしてかわりません。
ここからは、練習問題です。
豊かな潤いをもえる若葉に初夏の雨が与えた。
わかりづらいです。この文章がさっと頭に入ってくる人は、あまりいないのではないでしょうか。この文章をわかりやすくしましょう。係る言葉は、
「豊かな潤いを」「もえる若葉に」「初夏の雨が」
の3つです。長さはほとんど変わりません。よって原則1「長いものを先にする」ではなく、原則2「係る言葉の長さが同じ場合は、大状況や重大なものを先にする」を使います。
この3つの中で、一番スケールの大きなものはどれですか?「初夏の雨が」が最も大きな状況をとらえています。そこで「初夏の雨が」を前にしてみましょう。
初夏の雨がもえる若葉に豊かな潤いを与えた。
おお~。わかりやすくなりました。
まとめます。今回紹介した推敲技術は、
原則1:係る言葉が複数ある場合は長いものを先にする。
例外:短くても特別に強調させたい場合は、それを先にもってきて「テン」をつける。
原則2:係る言葉の長さが同じ場合は大状況や重大なものを先にする。
です。