読書生活 

本もときどき読みます

涙の表現、泣く表現、悲しみや怒りの表現を小説から拾ってみました。

涙の表現、泣く表現、悲しみや怒りの表現を小説から拾っています。随時更新していきます。

角田光代 

目の前の景色がふくれあがり、水の底のようにゆらゆらと揺れた。泣いているのだとしばらくして気づいた。『対岸の彼女』

重松清 

母の前では涙をこらえた。病院前のバス停のベンチに座っているときも、必死に唇を噛んで我慢した。でも、バスに乗り込み、最初は混みあっていた車内が少しずつ空いてくると、急に悲しみが胸に込み上げてきた。シートに座る。窓から見えるきれいな真ん丸の月が、じわじわとにじみ、揺れはじめた。座ったままうずくまるような格好で泣いた。バスのエンジン音に紛らせて、うめき声を漏らしながら泣きじゃくった。『バスに乗って』

東野圭吾

石神は首を降りながら後ろに下がった。その顔は苦痛に歪んでいた。くるりと身体の向きを変えると、彼は両手で頭を抱えた。

うおううおううおう-獣の咆哮のような叫び声を彼はあげた。絶望と混乱の入り交じった悲鳴でもあった。聞く者すべての心を揺さぶる響きがあった。『容疑者Xの献身』 

町田その子

感情が乗ると、涙が出てくる。幼い頃からどうにかしたくて、しかし直らなかった癖が出て、良郎はぐっと唇を噛んだ。それから踵を返して駆け出した。堪えていた涙が溢れて、情けないと思う。いい年して、何をしているんだろう。『コンビニ兄弟』

湊かなえ

深呼吸するように息を吸ったが、かえってそれが内側に溜まっているものを押し出したのか、涙があふれ出た。オゲッ、と一度声が漏れると、それも止めることができず、窓の外に激しい雨音が響いているのをいいことに、わんわんと声を上げて泣いた。『豆の上で眠る』 

「万佑子ちゃんは人をバカにするのが楽しいなんて思う子じゃない!」

言葉は直撃したようだった。姉はドッジボールを顔面で受けたような表情になり、下を向いた。両手を強く握りしめたり開いたりを繰り返す様子を私はじっと見ていたが、ふと視線を姉の顔に向けると、以前よりも大きくなったと感じる目に、こんもりと涙が盛り上がっていることに気が付いた。『豆の上で眠る』