あ~!元気ィ~?
忙しいトコ悪いわねェ…
今日、品川で組合の会合があったのよ。
栃木の公団で一人暮らしの母が、突然上京して来た。
西友のパートと、数年前に死んだ父の遺族年金で生計を立てている。
何食べたい?奢るよ!
な~んでもいいよ~
じゃあさ、おいしい鴨せいろにしよっか…
ホテルはとってあるというけれど、本当なの?
おいしかったね。どっか行きたいとこある?
うーん、そおねェ
せっかくだから、服でも見ようかしらねェ。
それなんかどーですか?
若く見えますよ!
店員におだてられ、頬を染めながら鏡に見入る母。
店員の眼を盗むようにさっと値札を見た母は、一瞬顔をこわばらせたものの店員にばれないように笑顔を作り直し、丁重にお礼を言ってこちらにもどってきた。
さっきの服、似合うよ。あの服、買いなよ。
いい。
母がトイレに行っている間に、さっきの服を確認した。
初めて見るブランド名、値札には¥18000とある。
なるほどね。
ほら!似合うって!わたしが買ってあげる。
ありがと!
今度カラオケ大会で着てくわ。
母は普段、服を駅前のマルエツで買っている。
こんな無名のおばさんブランドで大喜びしてる母を見ていると、泣けてくる。
シャネルの服なんて、一生袖を通すことなんてないんだろうなァ…
近所の生保のおばさんにカモられて、何件も保険に加入させられている母。
わたしは社会人なのに、困った時に何回も家賃分を仕送りしてもらった。
いつかライターで成功して、毎月仕送りしてやろうと、何度も思ってた。
売れっ子になったら都内にマンション買って、住まわせてやろうと思ってた。
お母さん、組合の会合なんて、ないんでしょ?
お母さん、ホテルとってないでしょ?
お母さん、今日家に泊まってけば?
うん…帰る。明日も仕事だから…。
今度またゆっくり来るわ!
今日は元気な顔見られて良かったよ。
はい、コレ…
え?
お仕事ガンバってねー。
封筒には5万円入ってた。
お母さん…
ん?
あのね…
わたしはね…。
フリーのライターって、お母さんが思ってるようなかっこいいもんじゃないの。
実は、3年前の就活、全部ダメだったの。
就職したって嘘なの。
そうでも言わないと、上京させてくれなかったでしょ。
あてもないけど、なんとかなるって思ったの。
わたしね…。
好きな人がいるの。
でも、その人、結婚してるの。子供もいるの。
わたし、何にも積み重ねないで、
大事な時間をムダに過ごして、
もう、30越えちゃった。
正月帰るから。
はーい。
そんじゃーねー。
バイバイ。
うん。
お母さん…
お母さん 毎日一人でごはん食べてるのかな?
お母さん、ごめんなさい。