読書生活 

本もときどき読みます

間引いたひまわりの様子がおかしい。

 5月、妻と一緒に、植木鉢にひまわりの種を3粒まいた。しばらくすると芽が出た。ネットで調べると、1番成長している芽を残して残りは抜くらしい。妻がかわいそうだと言う。話し合った結果、間引いた芽はトマトを育てている畑(と言っても2㎡くらい)の隣に植え替えた。

 植木鉢に残った芽は、さすが選抜されただけあって元気いっぱい。我がもの顔で鉢を独占している。ところが、間引きされた2つの芽は、地植えされた後もずっと下を向いている。なにかやり切れない、切ない気持ちになった。ひまわりも人間も、選抜され間引かれるのは同じ。間引かれたひまわりが僕に重なって見えた。間引かれたモノ同士がんばろうと2人にたっぷり水をあげた。

 次の日、様子を見に行くと、下を向いていた2人は地面に横たわりつつある。マンガやドラマのようにはいかない。選抜されなかったモノには悲しい末路しかないのか、と、どんよりとした気持ちで彼らを見ていた。もう、僕にはどうすることもできない。君たちはもうすぐ消えてなくなるだろう。次、どの世界に生まれ変わるかわからないけど、次は、間引かれないような、競争に勝ち抜けるような、強い体と賢い頭をもとう、いや、間引かれる側ではなく間引く側に、選抜される側ではなく選抜する側になろうと、臨終間際の彼ら(間引かれた芽)に語りかけた。

 ところが、ひと雨降った翌朝以降、彼らは元気になりぐんぐん伸びた。いつの間にか、植木鉢のひまわりを抜き去った。カイワレのようだった茎は、水道のホースのように太くなった。間引かれたモノが意地を見せている。人生何が起こるかわからない。

 夏になり、彼らは綺麗な花を咲かせた。植木鉢のひまわりを見下ろしている。調べてみると、地植えがよかったらしい。ひまわりに限らず、地植えにすると根がどんどん伸びて、地中の水分や栄養素を吸い取るのだそう。とにかく、間引かれた彼らが勝ち残ったものを追い抜くのを見るのは楽しい。

 ここで話が終われば美談なのだけど、彼らの花の様子がどうもおかしい。ひまわりの花というと、平な丸い茶色の周りに黄色い花びらがついているもの。この花は、茶色の部分がボコッと出ている。

 坊主頭の中学生が、黄色いシャンプーハットをしているように見える。一度そう見えたらそうとしか見えない。この症状もネットで調べたら、肥料の上げ過ぎらしい。そんなにあげた記憶もないのだけど、どうやら彼らは、その隣にいた夏野菜の化成肥料をくすねていたようだ。彼らは置かれた環境で見事に咲いたのだ。そして、必要以上の養分を吸収して、背も高くなり、これでもか、というほど顔面が肥大してしまった。

 お盆が過ぎ、シャンプーハットのような花びらもほろほろと落ち、坊主頭だけが残っている。

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 彼らに種ができるのだろうか。毎日、僕は心配しながら眺めている。