読書生活 

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プロから学ぶ言い回し。小説で使われている紅葉の表現を集めました。

 夏目漱石や太宰治が実際に小説で使った紅葉の表現を集めました。随時更新しています。 

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井上靖

樹林地帯である。トウヒ、ブナ、マカンバ、シラビ、カツラなどの林の中の冷んやりとした道。そこには秋の陽がこぼれ、梓川の澄んだ音が絶えず聞えている。『氷壁』

夏目漱石 

秋の日は鏡の様に濁った池の上に落ちた。中に小さな島がある。島にはただ二本の樹が生えている。青い松と薄い紅葉が具合よく枝を交し合って、箱庭の趣がある。『三四郎』

太宰治 

いつか、あれは秋の夕暮れだったと覚えていますが、私とお母さまでその師匠さんの家の前を通り過ぎた時、そのお方がお一人でぼんやりお宅の門の傍に立っていらして、お母さまが自動車の窓からちょっと師匠さんに会釈なさったら、その師匠さんの気難しそうな蒼黒いお顔が、ぱっと紅葉よりも赤くなりました。『斜陽』

十月のなかば過ぎても、私の仕事は遅々として進まぬ。人が恋しい。夕焼け赤き雁の腹雲、二階の廊下で、ひとり煙草を吸いながら、わざと富士には目もくれず、それこそ血の滴るような真赤な山の紅葉を、凝視していた。『富嶽百景』

森鴎外 

藁葺の家が何軒も立ち並んだ一構が柞(ははそ)の林に囲まれて、それに夕日がかっと差している処に通り掛かった。「まああの美しい紅葉を御覧」と、先に立っていた母が指さして子供に言った。子供は母の指さす方を見たが、なんとも云わぬので、女中が云った。「木の葉があんなに染まるのでございますから、朝晩お寒くなりましたのも無理はございませんね」『山椒大夫』

三島由紀夫 

それは若木の一本の桜が下枝まですっかり紅葉しているのだった。木洩れ日がその紅を透かして人工的なもろい美しさを際立たせていた。その周囲では秋の恣(ほしいまま)な光も息をひそめ、丁度磨き立てた玻璃(はり)を通してみるかのようだった。『煙草』

司馬遼太郎 

この茶道好きの男は、山道の途中に足をとどめてまわりの樹々を見まわした。天王山の南面は落葉樹が多く、かえで、ぬるで、はぜが濃淡それぞれに色づき、樹にからむ蔦まで紅葉しはじめている。『新史 太閤記 下』

野に、秋の色が深くなっている。『国盗り物語 3』

吉村昭 

峯々は、西日を受けて輝いているが、ひときわ高く屹立した峯の頂き付近に、染料をしたたり落としたような淡い朱の色が見える。二日つづきの雨で霧が立ちこめ、峯を望むことはできなかったが、その間に峯の樹葉は色づきはじめていたのだろう。紅葉は、例年、その峯の頂からはじまり、徐々に他の峯々の稜線に移り、やがて雪崩のように速度を早めて山肌を朱の色に染めながら下方へひろがってゆく。それは、深く刻まれた谷々を越え、低い山をおおい、やがて村の背後の山を染める。その頃には、すでに遠い峯々に枯葉の色がひろがっているのが常であった。『破船』

山々は緑と岩肌の色におおわれているが、頂の部分の緑が他の峯々の色とは幾分異なっている。それは、紅葉がはじまるきざしに違いなかった。『破船』

峯の頂きが、朱の色に染まりはじめ、日増しに色も濃くなってやがて他の峯々にもひろがっていった。澄んだ空には鰯雲が浮び、海水は冷えた。紅葉が、山火事のように近づき、裏山を朱に染め、村をおおった。『破船』

その年も、紅葉は天塩山地の高い峰々の頂からはじまった。朱の色は、早い速度で山火事のように尾根一帯を染め、互に合流して深くきざまれた渓谷へなだれ落ちていった。それは谷間に鬱蒼としげる樹木の葉をあざやかに染めながら、所々に滝を作って曲折する渓流の流れとともに下ると、やがて三毛別川の支流に営まれた六線川の村落をつつみ、さらに下流へと進んで海岸線にひろがっていった。『羆嵐』

左右に山がつらなり、かれは山道をたどって奥へ奥へと進んだ。鮮やかな紅葉で体が朱の色に染まっているような感じすらして、しばしば足をとめた。『島抜け』

重畳とつらなる山は、紅葉におおわれている。それは、山が雪におおわれる前の残照にも似た華やかな彩りだった。『羆』

紅葉が山火事のように山の奥からおりてきて、山嶺の樹林を朱色に染めた。『羆』

藤沢周平  

すでに紅葉しはじめている山の木々の下を、木洩れ日を浴びてすすみながら、兼続はそう思っている。『密謀(下)』

上橋菜穂子 

赤や黄に色を変えた葉が、水面を錦のように彩った。『鹿の王』

梨木香歩 

秋の野山の空気は格別である。ことに木々の中に松が入っていると、清新の気が鋭さを増し、心地よい。『家守綺譚』

柿の葉の紅葉は、楓のごとく全面深紅には至らず、ぽつぽつと緑を取り残したまま黄色や朱色が入っていく。さながら、緑の常緑樹、赤や黄色の広葉樹の入り交じった秋の山そのものの綾錦が、一枚の葉に映り込んだ様子である。虫食いの跡もまた、風情のあるものである。『冬虫夏草』

浅田次郎

 

日ごと秋は深まっていた。一週間のうちに市谷土手の桜はすっかり葉を落とし、大河内が命を救った牛込御門の楓も、その古き俗称のごとくに、燃え立つほどの紅に染まった。『箱館証文』

北村薫

車は、まるで綺麗に飾られた大きな生き物の中を走っているようだった。周りの山々は秋の色にはっきりと染め上げられていた。「あの金色は?」遠景近景に贅沢に使われた、冴え冴えと澄んだ黄金の輝きを見て思わず叫んだ。『六月の花嫁』

小走りに戻ってきた吉村さんが一面の落葉に足を取られたのか、女の子三人の前でどどーんとひっくり返った。大男さんが彩り豊かな秋の絨毯の上で長い脚を広げて尻餅をついている図は何ともユーモラスで、私たちは思わず、くすっと笑ってしまった。『六月の花嫁』 

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