わたしが言っているわけではありません。内田樹さんがそう言っているのです。
結婚を意識している方へ
結婚を意識しているくらいですから、お付き合いされている人がいるのでしょう。その人と自分はお互い自宅暮らし。なかなか会えないもどかしい毎日、ということにしましょう。
その人と一泊二日の旅行を計画しました。朝、駅で待ち合わせて、二日目の夕方、駅でさようならの予定です。実質会っている時間は36時間くらいですか?
朝、駅に行きその方と会います。あと36時間この人と一緒にいられます。はち切れんばかりの胸の高鳴り!旅が進むにつれて当然ですが残り時間も少なくなっていきます。あと、20時間、あと12時間‥
こういう気持ち、わかりますか。わたしはそうでしたよ。そして、こんなに愛している人と、時間を気にせず一緒にいられるようになるのが結婚です。夢のようでしょう。
結婚の現実
一分一秒を惜しんで会っていた二人が、結婚して夫婦になります。すると、なぜか、今まで見えなかったところが見えてくるんです。そして、どうでもいいようなことで不満が溜まっていきます。トイレを座ってしなかったとか、ペットボトルを洗って捨てていなかったとか、もったいないのに無洗米を買ってきたとか、柔軟剤の入れ方が足りないとか、そんなどうでも、どうでもいいようなことで、思い切り罵りあうようになります。
一緒にいたくて結婚したかったはずなのに、離れたくてたまらない、そんな苦悩の夜を何度も過ごすことになります。
離婚率が上がっている
こんな思いをしているのはわたしだけ?と思っていたのですが、どうやら違うようです。みんな苦しんでいるみたい。離婚率が上がっているのです。今や3組に1組が離婚するとのことです。しかも、20代の夫婦に限れば四捨五入したら2組に1組が離婚しているとありました。半分は離婚するって、みんな苦労しているんだなあ。
わたしも数え切れないくらい離婚を考えました。どれくらい考えたかって?そうですね、ジョジョ風に言うと「今まで食べた食パンの枚数くらい」考えました。
多くの人が離婚したがっているようで、ネットを見ると「離婚のことならおまかせ」「離婚の悩みの親切相談」「うまく別れるための法律知識」というようなサイトがずらりと並んでいます。
社会の声も、離婚者に優しくなっているように思います。ようは、昔に比べて離婚のハードルが下がっているということです。こんな時代ですから、これから結婚する人は、結婚してもうまくいかなかったら離婚して新しい人を探せばいいや、と考えても不思議ではありません。現に離婚率がどんどん上がっていますしね。
不退転の決意で結婚しろ
そんな若者に「不退転の決意で結婚しろ」と言っているのが、内田樹さんです。やり直せばいいや、なんて気分で結婚するな、一生添い遂げる覚悟で結婚しろ、と内田さんは言います(『街場の現代思想』)。
あまり知られていないことだが、「やり直しが利く」という条件の下では、私たちは知らないうちに「訂正することを前提にした選択」、すなわち「誤った選択」をする傾向にある。
自動車の免許を取ったばかりの新米ドライバーは決して中古車を買ってはいけないとよく言われる。「運転が未熟なので、ぶつけて傷つけるかもしれないから、中古車に乗る」という発想をしている限り、ドライバーは無意識に自動車を「ぶつけよう」と思うようになる。考えてみれば当然だ。「ぶつけても平気」という理由で、わざわざ購入した中古車である。ぶつけなければ買った意味がない。
話は離婚から逸脱しているようであるが、じつは全部「根は同じ話」なのである。
あなたが「結婚してみて、ダメだったら離婚して、もう一度やり直せばいい」という前提で結婚に立ち向かう場合と、「一度結婚した以上、この人と生涯添い遂げるほかない」という不退転の決意をもって結婚に臨む場合とでは、日々の生活における配偶者に対するあなたの言動に間違いなく有意な差が出る。手元に「リセットボタン」を握りしめて結婚生活をしている人間は、まさに「リセット可能」であるがゆえに、その可能性を試してみたいという無意識の欲望を自制することができない。それはその人が特別に自制心に欠けているとか、愛情に乏しいとかいうことではない。ボタンがあれば押したくなり、ドアノブがあれば回したくなる。人間というのはそういうものなのである。
確かにそうです。ぶつけてもいいや、と思えば運転も雑になりますし、やり直せばいいや、と思えばパートナーにも冷たくなりますし(不退転の決意で結婚した場合に比べて)、リセットボタンを持っていれば押したくなります。
わたしは、不退転の決意で結婚したつもりなのですが、このざまです。リセットボタンを持って結婚していたら、おそらくとうの昔に離婚しています。
内田さんは、既婚者ではなく、これから結婚しようとする若者に向けて言っているようです。わたしが内田さんに離婚の相談をしたら、「仕方ないんじゃない?」と言ってくれると思います。なぜなら、内田さん、離婚していますから。