読書生活 

本もときどき読みます

老後どころか今もありませんけどね。『老後の資金がありません』感想。

「ライフプラン」研修会にて

 先日、40半ばの社員が集められて、「ライフプラン」なるお題の講習を受けました。一人一人にタブレットが渡されて、そこに家族構成や世帯収入などの基本データを入力した後、「車は何年に一度買い替えるつもりか」「子どもの結婚式にどれくらいお金を出すつもりか」などのこと細かな質問に答えると、今後の人生で、いつ、いくらお金が出ていくのかがタブレットの画面に出てくるわけです。棒グラフで出てきます。下が西暦で、左が金額です。予定支出額と予定収入額が2本にょきにょきと。

 我が社は60で定年なので(今、少しずつ延長しているらしい。わたしの頃には定年が65になっているらしいのですが)、再就職しないと年金がもらえる65まで無収入で過ごすことになり、60以降支出と収入のバランスがガクッと崩れてくるのです。「このままだと大変なことになるぞ」とタブレットの画面が説得力を持ってわたしに訴えてきます。もうね、この画面見てると、退職後の海外旅行なんて馬鹿言うんじゃないよ、なんて気がしてきます。

 で、落ち込んでいるオーディエンスに講師は続けます。「車の買い替えを5年に一度ではなく7年に一度にしてみましょう」とか「お子さんには私立大ではなく国公立に行ってもらうとしたら?」とか。その通りに入力すると、あら、棒グラフがいい感じにバランスを取ってくるようになり…。で、最終的に「老後の資金には1億円が必要だと言われています」「貯金もいいですが、証券で…」もうそこから先は全く頭に入ってきませんでした。大手証券会社の仕切りだったわけです、その研修会。

 

 なんか、がっかりしちゃったんですよね。帰り道に考えましたよ。わたしたちはいつまで節制しなければならないんだ!おい!老後に1億円が必要だと?1億円?

 コーラが飲みたくなっても、自販機どころかコンビニにもよらず、スーパーで箱買いしてます。食品はカロリーで選ばず(昔はカロリーがっちり見てたけどね)、今では価格で買ってます。車のアクセルはそっと踏んで燃費を気にしているぞ。なのに、そんな努力で貯めてもすぐ消えるお金。

 億の金を手に入れるって、沼パチンコで大爆発をおこすか、カズヤにワンポーカーで勝つか、ワシズにガラス牌麻雀で勝つしかないだろ、と途方に暮れました。

 

 無計画に過ごしてきたわたしが、この年になって愕然としているように、この本に出てくる主人公夫妻も金に苦しむのです。

 

『老後の資金がありません』あらすじ

 銀行系のクレジット会社で事務職として働く53歳の後藤篤子(首になる( ;∀;))。4歳上のサラリーマンの夫と近々に結婚する28歳の娘、就職が決まった大学4年の息子という4人家族で、最近夫婦の老後資金に貯めていた1200万円を崩し、娘の結婚費用にあてようか悩んでいます。そんな最中、舅が危篤という知らせが届く。

 冠婚葬祭なんて安くていいよ、そう思う篤子ですが、社会にはいろんな人間がいることをこの齢で知ることになります。一見プライベートなことのようでも、社会的身分や地位を誇示するイベントに利用したり、「愛情表現」のために無理して見栄を張ったりしてしまう…。気がふれそうになる篤子と全く頼りにならない夫。

 一気に貯金が300万まで減ってしまった後藤家。でも、定年まであと3年働ける大黒柱の夫がいて、退職金も1千万円くらい入る見込みがある。ところが、夫婦ともどもリストラされ、出費を抑えるためにあれだけ嫌いだった姑と同居する羽目に。

 

 この小説、じりじり追い込まれる後藤家に絡むように、幾つかほかの物語も同時進行します。2億円あった老後資金が16年で底をついたという夫の両親。パン屋の経営に行き詰まり、失踪した姑の年金をあてに暮らす友人。年金を騙し取るための「老人レンタル」ビジネス等々。なかなかおもしろくて、

 

 わたしの同僚は、先のライフプランの研修でぼそっと「1億円あったら、俺は起業してもっと増やす」とつぶやいた。おい、おまえ、それができなかったから今お前は俺の隣に座ってるんだろ。

 もう、がっかり。でも、こういうものなんだろうな。老後はもうそこまで迫っているぞ。1億円詰まった段ボール、落ちてないかな。