鼻を撲(う)つとは
梶井基次郎の「檸檬」に「鼻を撲(う)つ」という表現が出てきます。
あまり、なじみのない言葉です。この「鼻を撲(う)つ」という表現、結論から言いますと、
卵やタマネギの腐ったような強烈な臭いが鼻を刺激する
という意味です。
梶井基次郎の檸檬の「鼻を撲(う)つ」の注には、売柑者之言(ばいかんじゃのげん)とあります。この言葉は、ここから来ています。
売柑者之言(ばいかんじゃのげん) とは
売柑者之言とは、中国、明時代の風刺文です。
簡単に言うと、立派なみかんを買って皮をむいたらすごく臭かったからクレームをつけたら、「今の官僚と同じだよ」と言われた、というものです。見かけは立派だけど中身のない官僚を皮肉った文章です。
その売柑者之言に、「鼻を撲(う)つ」とはどのように出てくるのでしょうか。
如有烟撲口鼻
「皮をむいたらすごく臭かった」の部分です。原文では、
如有烟撲口鼻
とあります。書き下すと、
烟(えん)有りて口鼻(こうび)を撲(う)つが如(ごと)し
となります。
烟(えん)ありて、の烟とは何でしょう。
烟(えん)とは
広辞苑で調べてみると、煙・烟(えん)とあります。
煙・烟(えん)
①けむり
②けむり状のもの
③すす。煤煙
④煙草の略
この中で臭いに関連するものは③の煤煙(ばいえん)となります。
煤煙(ばいえん)とは
これまた広辞苑より。
すすと煙。炭素化合物が不完全燃焼したため生ずる微細な浮遊物。大気汚染防止の観点からは、二酸化硫黄・窒素酸化物なども含める。
とあります。この二酸化硫黄・窒素酸化物とはどのような臭いかというと、
このサイトに詳しくあります。
ここから抜粋します。
二酸化硫黄とは、腐った卵や玉葱のにおいのこと、窒素酸化物とは、アンモニア(し尿のにおい)など
とのことです。
よって、鼻を撲(う)つとは、
卵やタマネギの腐ったような強烈な臭いが鼻を刺激する、となります。
檸檬の中では、檸檬の刺激臭を「鼻を撲(う)つ」と表現しています。レモンが腐っていたわけではありません。