読書生活 

本もときどき読みます

電車の中で

先日、帰りの電車の中で不思議な人を見ました。カーキのコートにボサボサの頭、20歳くらいのカイジに似てるお兄さんです。

 

カイジは、長い釣竿のようなものを持って電車に入って来ました。彼は、わたしの対面に釣竿と荷物を置くと、そこから何かを取り出し、吊り輪のかかっている棒にビニールテープでぐるぐる貼り付けました。よく見ると、レコーダーのように見えます。

 

続けて、そのレコーダーに黒いコードを装着し、そのコードの先を、電車の天井の通気孔のようなところに取り付けました。ビニールテープで。

 

手慣れた感じで作業を終えた後、カイジは再び車外に出て行きました。

 

彼が車内に装着したものがこれです。

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レコーダー(のようなもの)が棒に対して垂直に立ってます。ただ、棒に張り付いていればいい、というわけではなさそうです。命綱を付けて体操の練習をしている少年みたい。

 

引きの画像はこれになります。

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なかなかの高さです。この高さだと、死ぬ可能性だってあります。命綱がたよりない。

目の前のリュックがカイジの荷物です。釣竿の先にまだ何か付いてます。彼が車外に出ている間に写真を撮りました。盗撮みたいでごめんなさい。

 

その後、戻ってきたカイジは、席に座りスマホにイヤホンをさして何かを聞いてます。スマホをずっと見て、さっき自分が装着したものにはまるで興味なし。見ないのです。

 

この装置はなんだ?しばらく考えて分かりました。この装置から出ているコード、このコードをカイジは天井に付けていました。柱に巻きつけるでもなく、天井にわざわざ。

 

おそらく音を拾って聞いているのでしょう。

 

もしかして盗撮かとも思いましたが、まさかねえ。こんなに堂々と付けられたら、その時点で隠しカメラじゃなく、ただのカメラです。

 

ただ、わけの分からないものを目の前で取り付けられて、愉快ではありません。女の子なら恐怖でしょうし、怒りを感じる人もいるはずです。

 

音鉄?と思われるカイジは、相変わらずスマホに夢中です。そのスマホに映っているのは君が仕掛けたカメラの映像か?君の耳に響いているのは、この車両が奏でるガタンゴトンか?

 

これは違法ではないのか?

 

うーん、声をかけるべきか。怖い。わたしは格闘技は好きだし、刃牙は毎週読んでいますが、地上最弱の自信があります。目の前のカイジの戦闘力も低そうですが、わたしのそれはもっと低いです。

 

車掌などいません。降りる時、駅員さんに言うか…。

いや、待て。これは、これでありなのかもしれません。この行為は世間ではセーフなのか?わたしが気にし過ぎなのか?

 

上の装置と目の前のカイジを、わたしの視線は行ったり来たりです。周りの客は気付いていない様子です。みんな、わたしの目の前で、カイジが何かやってるぞ。

 

そのとき、車両の細かな揺れに耐えられなかったのか?ビニールテープで固定されていた装置が棒から外れ、ポロッと落下しました。あぁ!そして、天井のビニールテープを支点にして、ブラブラと揺れ始めました。カイジはそれに気付いていない!この後に及んでまだスマホ!。

 

わたしはカイジの目を盗み、その様子を写真におさめました。これです。盗撮感半端ない。カイジの目の前での撮影、カイジは気付きません。

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コードの先のビニールテープもこころもとない。床に落ちるかと思ったその時、別の乗客が右から現れて、揺れる装置を手にしました。カイジとは違う、垢抜けた意識高い系のお兄さんです。佐藤健を少しつり目にした感じ。

 

装置を手にした佐藤健は、わたしの方を見て、

「外れましたよ」

と言いました。そうか、佐藤健は、長い間この装置を見ていたわたしを見ていたんですね。そして、わたしがこの装置の持ち主と思ったわけだ。

 

佐藤健、わたしじゃないよ、見てたんならわかるでしょう。どうしてわたしをそんなに怖い目で見るの?戦闘力も少し高そうだし。

 

すると、わたしたちのやり取り(と言ってもわたしはただ首を横に振ってるだけでしたが)に気付いたのか、カイジが立ち上がり、

「すみませんすみませんすみませんすみません…」と言いながら、装置を素早く受け取り佐藤健に謝っています。頭を下げ続けるカイジと睨みつける佐藤健。

 

がんばれカイジ!負けるなカイジ!さっきまで佐藤健みたいな行為に及ぼうとしていたのに、不思議な感覚です。正義は我にあり、と言わんばかりの佐藤健の味方になれません。

 

ここでタイムアップ。わたしの下車駅に電車が到着しました。目の前の藤原竜也と佐藤健の戦いに後ろ髪を引かれながら、その車両から降りました。

 

すると、駅には何人ものマニアが写真を撮っています。

間違いなくカイジはマニアだ。がんばれカイジ、負けるなカイジ。