「それは嘘です。財前教授の只今の証言は嘘です!」『白い巨塔 p282』
BOOK・OFFで『白い巨塔』シリーズ全5冊を買って一気読み。唐沢寿明主演のドラマ「白い巨塔」の大ファンなのに、原作は未読でした。
おもしろい。ホントにおもしろい。
個性際立つ登場人物が、それこそ命懸けで勝負する。
下町ロケットのような勧善懲悪物語ではなく、悪者が心の底から反省し涙することもない。そもそも、神田正輝のようなあんなにあこぎな悪者などいないし、古舘伊知郎のようにいい大人が心を入れ換えることもない。
財前、鵜飼、里見、東、大河内、菊川、金井、佃、柳原、関口。様々なタイプの人間が登場する。
わたしには、里見先生がとても輝いて見える。でも、わたしは絶対に里見先生にはなれない。わたしは、財前におもねりながらも思い悩むことで良心をごまかそうとする(わたしにはそう読めた)柳原であり、財前に身を全て捧げて奉仕する勉強不足の佃かもしれない。
就職したばかりの人たち向けのビジネス書が、本屋に平積みされてる。見やすい企画書の書き方とか、効果的なプレゼンの仕方とか、明日役立つハウツー本の類いで、随分売れてるみたい。
そういう些末な技術はいずれ身に付く。だけど、自分の器を知ることのほうが大事。自分の仕事人生を振り返って本当にそう思う。
自分の人としての理想を追うのは悪くないけれど、人ってそんなに変わらない。
たとえば、誰もいない夜道に万札が落ちてたとしてそれを拾う人間かどうか。
いかつい奴らが悪さしてたら、それを止めようとする人間かどうか。
わたしなんか根があまりよろしくないので、万札を拾うのにさほど躊躇しない。ええかっこしいなので、自分より弱そうなタイプが店員にクレームつけてたら止めに入ると思うけど、袖口から入れ墨が見えたら見て見ぬふりをする。
こういう癖(へき)は、ほんとに変わらないのだ。だから、柳原や安西が里見や財前になれないように、蛇は蛇は蛇だし、象は象。どんなにダイエットしても、象は痩せた象であり、キリンにはなれないし、蛇はどれだけ脱皮しても足が生えてくることはない。
柳原でも安西でもよし。彼らなりに生き方をするのだ。蛇は蛇でいいし、象は象でいいのだ。
この本が書かれたのはもう50年ほど前。若い教授の財前が、今生きていれば100近い年齢となる。医局の柳原だって80半ばだ。なのにちっとも色褪せない。山崎先生には頭が下がる。